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between anthropology, primatology and management of technology

世の中を理解するための"コンテキスト"の身に付け方(試行錯誤中)

今回の記事では、世の中で起きている事を理解するための"コンテキスト"-教養的なものの身に付け方を試行錯誤するプロセスについて書いてみる。


 

海外オフィスに移ってから、ようやく政治経済周りのニュースを見る/読むようになった。社会人、特に私がいる業界の人間にとって、ニュースというのは三度の飯以上に大事であると重々理解していたのだが、自宅で過ごす時間が1~2時間しかない私のライフスタイルから、「ニュースを見る/読む」時間はあっさりと消えていった(隣の席に座っていた後輩は、数種類の新聞・雑誌を購読していた上、風呂の中で本を読むという生活を送っていたが、私にはとても真似できなかった)。

最近は、CNN(TV)WSJ日経電子版の3つが主な情報源である(日本にいた頃は日経産業新聞ばかり読んでいた)。朝晩にCNN、日中時間のある時にWSJ(英語の勉強も兼ねている)、補足的に日経新聞を斜め読み、という感じ。

真面目にニュースを読み始めて気が付いたのは、起こっている事象そのものは理解できても、"その事象が何故起こったのか"及び"世の中においてその事象が何を意味するのか"が理解できないという事である。恥を覚悟で具体例を挙げると、今年の1月にフランスでテロが起きた際に、「フランスでISISによるテロが起きた」という事は理解できても、「何故フランスでテロが起きたのか」が当時はわからなかった。ニュースとは直接関係ないが、こちらに来てできたレバノン人の友人との会話の中で、何回も地雷を踏んだ(特にイスラエル関係)。

そんな事もあり、世界史と宗教、経済周りの本をこちらに来てから必死に読み始めた。友人達からは新書を薦められたが、新書を読むための前提知識すらなかったので、まずは池上彰氏の本を読み始めた。こんな記事もあるものの、池上氏の解説能力は本当に偉大。世界史周りでは佐藤優氏の本もわかりやすいが、池上氏の一番良い所はスタンスを取らない所だと思っている(∵前提知識が無い状態で本を読むと、スタンスごと取り入れてしまうため)。自分のための備忘録も兼ねて、読んだ本とコメントをまとめておく。


 

日本史・世界史

初めに言っておくが、私の知識レベルは高校生以下であった。地理選択のため日本史・世界史はほぼ未履修の上、進学校ではないがゆえに、教師の興味のある歴史のみ詳しく取り上げる、というフリーダムな授業が行われていた(私の場合はやたら中国史だけ詳細に勉強した記憶がある)。そのため、日本史・世界史は高校生レベルからやり直す必要があった。下記に取り上げる「もういちど読む」シリーズは、既に高校で日本史・世界史をきちんと履修した人にとっては物足りない内容だと思うが、何もわからない状態から、"歴史"というものの概観を掴むには非常に役に立つと思う(本当にやり直したい人は「詳説日本史B/世界史B」の方を読んだ方がいい)。今回は読んでないが、周りからはウィリアム・H・マクニールの「世界史」や、予備校講師である荒巻豊志氏の本もおすすめされた。ベタだが「銃・病原菌・鉄」も面白かった(歴史の知識があまりなくてもかろうじて読めたが、世界史を勉強し直してからもう一度読む予定)。

次に、世界史マニアの同僚から薦められた、佐藤氏・池上氏による「大世界史」を読んだ。この本の良い所は、ある程度の"主観"を交えながら歴史を眺められる所にある(冒頭に書いた事と一件矛盾するが、ある程度知識を取り入れた後は、主観が入っている本を読んで「自分だったらどう思うか」を考えたほうが良いと思う)。高校生の時は歴史に1mmも興味が持てなかったが、立場によって歴史というのは全然変わるという事を理解して、ようやく歴史を学ぶ醍醐味がわかった気がする(本当かどうかわからないが、historyとstoryの語源は同じらしい-言葉のつながり 執筆者:田中千鶴香(実務翻訳者) | 『英文解釈教室』の講義を終えて/英文法ゼミ)。

歴史、というカテゴリからは少し外れるのかもしれないが、前回の記事で紹介した丸山真男「日本の思想」も面白かった。日本史の本を読んでいた際に「天皇と幕府による二重統治が何故こんなに長い間成立していたのか」という素朴な疑問を抱いていたのだが、その背景(もしくは二重統治がこの国に与えた影響)を考えるためのヒントがあったような気がした。


 

宗教+イスラーム周り

ニュース、というよりは歴史を理解するために宗教の本も読み始めた。 海外に行くと「日本人は無宗教なのか」という質問をよくされるがいつも回答に悩む。「明確に~教というのがあるわけではないが、神様を信じていないわけでもない」という無難な答えでいつも済ましてきたが、日本人の宗教観というテーマは掘り下げると非常に面白い気がしている。ここでも池上さんの本が大活躍している。

イスラーム周りで友人から薦められた本は下記。順番に読んでいく予定。

宗教周りでもう一冊お勧めしたいのが遠藤周作「沈黙」。この本では、「神を信じるという行為」についてだけでなく、日本人の思想についてもきわめて興味深い内容があったので、一部抜粋しておく。

「この国は沼地だ。やがてお前にもわかるだろうな。この国は考えていたより、もっと怖ろしい沼地だった。どんな苗もその沼地に植えられれば、根が腐りはじめる。葉が黄ばみ枯れていく。我々はこの沼地に基督教という苗を植えてしまった」

「デウスと大日と混同した日本人はその時から我々の神を彼等流に屈折させ変化させ、そして別のものを作りあげはじめたのだ」

「日本人は人間とは全く隔絶した神を考える能力をもっていない。日本人は人間を超えた存在を考える力も持っていない」

丸山真男「日本の思想」で語られている「日本人は物事を客観的に捉える機軸が無いために、外部から入ってきた文化を、融合して取り込むのではなく"そのまま"並べる」という主張とは異なり、「外部から入ってきたものを改変して違うものを生み出す」という主旨(単に日本に"神"という概念を受け入れる素地が無かっただけかもしれないが…)。同じ作者の「深い河」も私が一番好きな本の一つなので、いつか記事を分けて書評を書きたい。どんどん脱線するが、「日本人が誇る改変能力」という意味では川口盛之助氏の「オタクで女の子な国のモノづくり」という本も個人的におすすめ。

経済

「経営」には触れてきたが、「経済」を体系的に学んだ記憶がないので、こちらも本を読んでみることにした。経済学周りの入門書籍は、かねどーさんという方の「経済学の入門書(中高生、非経済学部生向け) - かねどーのブログ」に凄く詳しくまとまっているので、私もこの記事を参考にしながら本を選んでいる。記事中で紹介されている竹中平蔵氏の「経済ってそういうことだったのか会議」は、過去に読んで凄くわかりやすかった記憶がある。スタンフォード大学で一番人気の経済学入門」は、ミクロ編のみ読んだが、少し物足りない感じがしたので、やはり自分で本を選ぶのは難しい。安達誠司の「円高の正体」は、ここ最近ニュースを騒がせている日銀の政策を理解する上で非常に役に立った(かつ、円高/円安の基本的な説明から書かれているので、経済初心者にもわかりやすい良書だと思う)。板谷敏彦氏の「金融の世界史」は、金融システムの成り立ちについて書かれており、経済と世界史をまとめて学べるので読んでいて凄いお得感のある一冊。


 

 

ここまでで、コンテキストではなく必要とされる前提知識を身に付ける方法にしか辿り着いてないのだけど、ニュースを見て「疑問」が生まれるようになったら、第一ステップはクリアなのだと思う。。一か月ぐらいでその段階にたどり着けますように。