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between anthropology, primatology and management of technology

書評: しあわせの理由

「ゼンデギ」に次ぐ2冊目のイーガン作品として「しあわせの理由」を読んだ。SF界では(特に表題作の)評判が高いが、個人的にはケン・リュウの「紙の動物園」や山本弘の「アイの物語」など、もう少し情緒的なSFの方が好きかもしれない。面白かった順に並べると、愛撫>闇の中へ>しあわせの理由>血をわけた姉妹>チェルノブイリの聖母>ボーダー・ガード>道徳的ウィルス学者>適切な愛>移送夢。以下印象に残った作品のあらすじと簡単な感想。

愛撫

イーガン作品を二冊しか読んでいない私が"イーガンらしさ"を語れるとは思えないが、よくも悪くもイーガンらしくない作品。収録されている作品の中では一番好きかもしれない。フェルナン・クノップスの「スフィンクスの愛撫」という絵画を現実のものとすべく作られた、頭は女性 / 身体は豹のキメラが登場する(実は絵画のモデルは豹ではなくチーターらしいが)。残酷な設定ながらも、どこか美しさを感じる作品だった。

闇の中へ

突如発生するワームホールに飲み込まれた人間を救う「ランナー」の話。ワームホールの内部は空間と時間が僅かに歪んでおり、現在の位置から見て「未来に位置する」空間へしか内部には進むことができず、かつ「未来に位置する」空間は完全な闇である。「ランナー」はあらかじめ決められたコースを進みながら救出を行うため、コース外の人間は救うことができない。ワームホール内の世界観は人間の人生そのもの、と思いながら読んでいたら、丁寧ににも作中で同じことが書かれていた。

ワームホールは、生きることのもっとも基本的な真実を具現化している。人は未来を見ることができない。人は過去を変えられない。生きるとはすなわち、闇の中へ走っていくことである。だからわたしはここにいる。

作品によって結構トーンが異なるので、気に入った作品だけ読むのもありなのもかもしれない。

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

 
紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 
アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)