書評: 暗幕のゲルニカ
今日の記事は原田マハ「暗幕のゲルニカ」を紹介。Kindle版がなかなか出ないため、家族に頼んで空輸してもらった一冊。著者の原田氏は、かつて美術館に勤めており、2002年以降はフリーのキュレーターとしても活躍している事から、小説内に出てくる美術関連の描写にはかなりリアリティがある。
帯に「<ゲルニカ>を「消した」のは誰だ?」とあったため、前作の「楽園のカンヴァス」同様ミステリー調のストーリーを期待して読み始めたのだが、どちらかと言うとゲルニカ制作時のピカソ、及びピカソの愛人であったドラ・マールの心情描写や、ゲルニカに込められたメッセージに焦点を当てて描かれた作品であった。9.11やテロリズム、民族独立運動への言及もあり、まさに今を生きる我々のために書かれた作品、という印象を受けた一方、ストーリーとしては、ミステリー要素を含んだ「楽園のカンヴァス」の方が個人的には面白かった。余談だが、原田マハは芸術に関係ない作品も多数書いており、中でも「独立記念日」は、落ち込んだ時におすすめの一冊である。