書評: バリュエーションの教科書+ファイナンス周りの本(2017年8月8日追記)
仕事でDue Deligence(企業の価値・リスク評価)に何回か携わった割に、バリュエーション周りをきちんと勉強したことが無い事に気が付いたので、森生明氏の「バリュエーションの教科書」を読んでみた。これまで読んだ企業価値評価周りの本では一番楽しく読めた一冊である(私は素人に近いが、実務でM&Aに携わっている人が読んでも恐らく面白いと思う)。
本書は、「第I部 企業価値算定の基本構造」「第II部 基本構造から読み解くM&Aの世界と資本主義社会の課題」「第III部 実務応用編 理論と実務の橋渡しの試み」の三部から構成されている。
第I部は、企業価値算定において重要となる各指標が、それぞれの指標が持つ本質的な意味も含めて丁寧に解説されている。また、それぞれの指標を用いて具体的な分析例が掲載されている所もかなり良かった(他のファイナンス本では、指標だけを紹介して終わってしまう事も多いので)。以下、基本的な部分ではあるが自分のための覚書。
- のれんの想像力(PBR: Price Book-Value Ratio, 株価純資産倍率)は、将来への期待とリスク(PER: Price Earnings Ratio, 株価収益率、株式時価総額÷利益)×足元の効率性(ROE: Return on Equity, 株主資本利益率、利益÷簿価株主資本)で決まる
- 企業価値は株式時価総額+ネット有利子負債で決まる(そのため、無借金経営が多い日本企業は企業価値が実質よりも低くなりがち)
- ROEを要素の掛け算のかたちに分解する事でKPIとの結びつけが可能(例: 株主資本利益率=売上高利益率×総資産回転率×財務レバレッジ)
- M&A価格算定で一番大事なのはEBITDA倍率であり、企業価値創出力はEBITDA倍率(EV/EBITDA)×ROIC(EBITDA/IC)の形で表せる
第二部は、具体的な事例を出しながら、ファンドによる企業買収の背景、M&Aによる企業価値向上、資本主義・ファイナンス理論の限界について、第三部は、実際の価値算定方法と、オプションの考え方を用いながらいかにしてリスクを価値算定・及び経営上の意思決定に折りこむかが書かれている。「教科書」というタイトルがついているが、単純な情報の羅列だけでなく、「企業の経営及びM&Aを含めた投資活動とどう向き合うか」という点も含めて書かれており、おすすめの一冊だと思う。同著者の「MBAバリエーション」は更に平易に書かれていて初心者にはおすすめ。
以下は、ファイナンス周りの入門書で読んで面白かった/タメになったものをついでに紹介。
まずは小宮氏の「「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書」。もしもあなたが生まれてから一度もファイナンスの勉強をした事がなくて、明日までに各種の用語を理解しておく必要がある、という場合にとても役に立つ。
「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書 (PHPビジネス新書)
- 作者: 小宮一慶
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2015/06/19
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
次に、石野雄一の「ざっくり分かるファイナンス」。ざっくりと書いているけれど、上の小宮さんの本よりも丁寧だった記憶がある。同著者の「道具としてのファイナンス」も同様にファイナンス周りの知識を解説した本だが、こちらはExcelによる具体的な計算方法まで書かれているので、「NPVを計算して」と突然言われた場合にとても役に立つ(といっても関数を使えば一発だが…)。
ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)
- 作者: 石野雄一
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/04/17
- メディア: 新書
- 購入: 22人 クリック: 169回
- この商品を含むブログ (73件) を見る
- 作者: 石野雄一
- 出版社/メーカー: 日本実業出版社
- 発売日: 2005/08/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 40人 クリック: 946回
- この商品を含むブログ (54件) を見る
四冊目は砂川氏の「コーポレート・ファイナンス入門」。ファイナンスを解説した新書の中では一番充実していると言われている(が、その分読む難易度も上がる)。ファイナンスについての知識が一切無かった時期に最初に手に取った本だが、何が書かれているか理解できなかったので、自信が無い方は上の二冊から始めた方が良いと思う。同著者の本である「はじめての企業価値評価」も良い本だが、はじめてのと書かれている割に全然優しくないので、石野氏の本から読み始めた方が良いと思う。
(2017/8/8追記)先日上記の本を会社で眺めていたら、経理畑出身の先輩から「入門書ではなく重たい本をきちんと読みなさい」という至極もっともなアドバイスをもらったので、その時に進められた本を追加しておく(感想は順次追記予定)。二冊ともファイナンス周りでは一番オーソドックスな本だと思う。
ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版---企業財務の理論と実践
- 作者: ロバート・C・ヒギンズ,グロービス経営大学院
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログを見る
企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践
- 作者: マッキンゼー・アンド・カンパニー,ティム・コラー,マーク・フーカート,デイビッド・ウェッセルズ,マッキンゼー・コーポレート・ファイナンス・グループ
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/08/26
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る