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書評: ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録

今回取り上げる本は、かつて三井住友銀行頭取および郵政公社社長を務めた西川善文氏による「ザ・ラストバンカー」である。ユーグレナやLINE、メタップスなどのベンチャー企業CEOが推薦する本を集めた「新世代CEOの本棚」という本の中で、mixiの元社長である朝倉祐介氏が取り上げていたので、手に取ってみる事にした(「新世代CEOの本棚」は、Newspicksの記事をまとめた本であるため、書評としては少しライトだが、ちらほら面白そうな本が載っていた)。

さて、「ザ・ラストバンカ―」であるが、西川氏が入行してからおよそ40年間にわたる銀行内での債権処理業務(主に安宅産業、平和相銀、イトマン事件、住専)、及び郵政公社時代の話が描かれている。バブル崩壊後に生まれた私からすると、高度経済成長期からバブル崩壊までの一連の流れそのものが、一つのストーリーとして非常に面白かった(西川氏はこの流れによって多大な苦労を背負い込むことになるのだが…)。個人的に印象に残ったのは下記の部分。私は銀行員ではなくコンサルタントだが、目指すべきポイントは同じだなと思った。。

リスクを負って徹底的に調査したのと、リスクを負うのを恐れてあやふやに済ませた調査とは全然違う。調査部経験者は大勢いるが、結論を明快にせず無難なレポートをまとめる優等生は、その後見事なくらい出世していない。支店長や部長止まりで役員にはなれなかった。

また、一連の債権処理業務の間に挟まれる人間関係の話も、個人的に興味深かった。私は非常に小規模な企業に勤めており、いわゆる社内政治に巻き込まれる機会はほぼないのだが、お客さんである大企業に行くと、事業を円滑に進める上で社内政治がいかに重要かというのを感じる時がある。そして、我々の業務(コンサルティング)においても、この"社内政治"的なものをいかに理解するかが、サービスの質に繋がってくるため、いわゆる"分析屋さん"と"信頼されるコンサルタント"の違いを生むのは、この社内政治を読み取る能力の有無も関係していたりする。そういう意味で、"銀行"というひときわ社内政治が重要(でありそう)な業界における、一人の人間の葛藤を描いたこの本は、学びが大きいものであった(同じ銀行というテーマでは、山一證券破綻劇を描いた清武英利しんがり」も面白かった)。

本書の最後は郵政公社の話でまとめられているが、かんぽの宿売却騒動に関して書かれた最後の一文に5回ぐらい頷いた。特に政治周りの議論について、日本では感情論が先行するような印象を漠然と抱いていたので、ビジネスマンとしての西川氏の苛立ちは凄くわかる気がする。

ビジネスはドライで合理的なものである。これを否定する人は誰もいない。マスコミの記者も会社に属しながらビジネスとしての報道を続けているのだから、この合理性と無縁でいることはできない。では、なぜビジネスの現場における合理性を、合理性でなく根拠なき情緒で批判するのだろうか。そのような態度が誠実なものでないことは、当のマスコミを含めた誰の目にでも明らかであろうと思う。

あくまで西川氏から見た世界が描かれており、業界人からしたら「肝心な事が書かれていない」という意見もあるようだが、個人的には凄く面白い一冊だった。

 

 

新世代CEOの本棚

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