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between anthropology, primatology and management of technology

書評: 人と「機械」をつなぐデザイン

佐倉統編の「人と「機械」をつなぐデザイン」を読了。デザイナーや研究者にインタビューしながら、人間−機械及び環境–技術の関係性について考えていく本。まとめ方に悩むが、印象に残った章を中心に取り上げる。(超余談だが、昔佐倉先生に猿の真似をしてもらったことがある。当時(20歳頃)京大霊長類研への進学を検討していたのだけど、「霊長類の研究は食えないのでやめなさい」と言われてあっさり諦めてしまった)

  • 01 日常生活とテクノロジーの行方(暦本純一)

「Augmented Human(人間の拡張)」をキーワードとして、拡張現実の研究者である暦本氏が人間とテクノロジーの関係性について語る。AHの「テクノロジーで人自身を進化、強化、拡張、あるいは再設計する」という考え方は結構好き。話が飛ぶけど、

マクルーハンの「メディア論」は、副題が「人間の拡張の諸相(The Extensions of Man)」で、メディアは人の拡張であるという基礎的な考え方を主張しているわけですね。マクルーハンの非常に先駆的なところは、メディアをコミュニケーションやインタラクションの手段というよりも、第一義的には人間のエクステンション=拡張だととらえたところだと思います

とあって、この辺も読みたいと思った。一番印象に残ったのは、

ナイフを使って料理をするとき、ナイフの握りの部分が気になるようであれば、インターフェースとしてはまだ不完全なわけです。すぐれたナイフなら、そういった余計な部分にではなく、切っている刃の先に拡張しているわけです。情報技術との関係も結局は同じだと思います。機械は機械であるからこそ面白い。なまじ、人間っぽい機械である必要はない。本当にいい道具はその存在自体が意識から消え、意識を拡張させる。それが一体感であり、僕の考える人と機械の理想的な関係です。

こういう感じで、人と機械が融け合う世界というのに憧れる(攻殻機動隊野崎まどの「know」の世界観に近いかもしれない)。

この章では「技術の包丁理論」に関する話が印象に残った。使い方によって技術は人を救う道具にも殺す道具にもなるが、その両義的な性質をどう捉えていくかの話。「アメリカは軍事があるからこそインタフェースやユーザビリティがすごく発達している(大阪大学 浅田稔氏)」という意見を踏まえて、軍事的な技術開発をしないというスタンスを取っている日本がどのように技術のユーザビリティを高めていくかを問いかけている。個人的には、インタフェースやユーザビリティの向上に必ずしも軍事的背景が必要になるとは思わないけれど、研究開発への投資という観点で見ると、軍事が絡んでいた方が面白い技術が生まれている印象を受ける(特にイスラエル)。あとは、温故知新の重要性に関する話も。

ダーウィンみたいなかつての観察の巨人が見つけた問題で今でも未解明なことはある。問題自体忘れ去られていても、今の技術なら突破口があってさらに大きな問題につながっている

個人的に一番興味があるテーマ。これまでは「リニアモデル[*1]」にそって研究開発を進めていけば、自然と市場ニーズを満たすような製品が生まれていたが、新しい技術によって生活が十分豊かになると、市場ニーズが必ずしも新しい技術を求めなくなる。結果、出口の見えない状態で研究を行うことによって、シーズアウトの傾向が強まっていくという課題提起。それに対して、オムロンSONYの事例を取り上げながら、研究開発における目的意識をどう作り上げていくかについて説明している。

まず、ニーズ(社会で求められているもの or 個人で求められているもの)と技術シナジーの2軸をとり、下記の4象限に分ける。

・A: ニーズとシーズがマッチしており、従来型の研究開発(社会ニーズ×技術シナジー大)

・B: 社会のためにあらゆる手を使う、問題解決型の研究開発(社会ニーズ×技術シナジー小)

・C: 自分の欲しいものをとことん作る、職人型の研究開発(自分ニーズ×技術シナジー大)

・D: 欲しいものはあるが作れない、趣味型の研究開発(自分ニーズ×技術シナジー小)

具体的な事例で言うと、デュポンのナイロンはA、オムロンの無接点近接スイッチはB、SONYiPhoneはCに分類される。問題解決型はMission-Oriented、職人型はVision-Orientedであり、何をやったらよいかわからない企業は後者を目指すべきという記述があったが、近年は、SONYの井深氏や盛田氏のようなVisonaryな思想を持った人が少なくなっており、Vision-Orientedな技術開発を実現するのは相当難しいのではないかというのが仕事をしている中で感じた個人的な印象。

最後に、3部で出てきたドーキンスの「利己的な遺伝子」の中の「延長された表現形(extended phenotype)」に関する話を引用。

通常、表現型は生物個体の身体や生理、行動など、あくまでもその遺伝子を保持している個体に限定して考えられている。しかしドーキンスは、遺伝子の視点からすれば、なにも個体に限定する必要はなく、同種の他個体や異種の生物、さらには生物が作り出す人工物も表現型として考えることができると主張する。

暦本氏の「Augmented Human」の考え方に近いけれど、人間が生み出した技術もまた人間の表現形であり、一部なのだなと。企業の技術開発をサポートする仕事をしている一方、実は技術が我々の生活の中に融け込んでいくことに少し抵抗を覚えているのだが(時々技術が浸透していない途上国に高飛びしたくなる)、もう少しポジティブに受け止めても良いのかな、という気持ちになる本だった。

[*1]リニアモデル: 研究開発手法の一つ。基礎研究→応用開発→製品設計→製造→販売の流れにそって研究開発をすすめる。

人と「機械」をつなぐデザイン

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