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between anthropology, primatology and management of technology

書評: 時間のデザイン―16のキーワードで読み解く時間と空間の可視化

「瞬間」「遷移」「シークエンス」など、時間にまつわるキーワードをもとに、写真家やデザイナー、建築家についてインタビューしたものをまとめた本。メモをあまり取れなかったのだけど、印象に残っている部分をいくつか。

  • 未来は過去からの逆算

「今から20年後に流行るものを考えるよりも、今現在から20年前に生まれて今でも残り続けているものを考える方が近道」とプロダクトデザイナーの方が書いていて(残念ながら名前は忘れた)、私が今携わっている技術経営の世界にも当てはまるかもしれないと思った。

弊社の仕事の一つとして「新規事業機会を考える」というのがあるのだが、プロジェクトの序盤は「今までやったことがない斬新なアイデア」をこちら側もお客さん側も探そうとする傾向がある。それが議論が深まるにつれ、「過去の勝ちパターン(製造業の世界で言えば、現在も売れ続けている製品が生まれた背景・経緯)」を把握した上で、「自社で長年育んできたコア技術」が活きる機会に収束していく。冷静に考えれば当たり前の思考プロセスなのだけど、「新規事業」「イノベーション」という単語が出た瞬間に過去ではなく未来に目が行きがちだなぁと。関連して「枯れた技術の水平思考」で知られる横井軍平本も再読したい。

  • デザインにおける時間感覚

展示の期限が決まっているインスタレーションと、100年建っているかもしれない建築では、存在することの意味がまったく違うということです。建築には、いつでも見に行くことができる安心感や、建っている場所と結びついた確固たる存在があります。しかしテンポラリーなものは、無くなったあとは見た人の記憶にしか残りません。

一口にデザインと言っても、当然シチュエーションによってそのデザインに求められるもの(特に時間的な思想)は変わってくるわけで。目新しさではなく、時間が経っても人々の生活・場所に馴染むものをデザインできるかどうか、という思想はこれまであまり意識しなかった、かも。

  • 「無常」という概念

玄侑は何度となく「方丈記」を読み、さまざまな予期せぬ境遇の中で生きていくには、「揺らぐ」ことをあえて肯定する「無常」という考え方をもつことが有効であると考えるに至ったという。(中略)わたしたちは自分たちの環境を「一時的なもの」の連続だと捉えて、初めて永続性を獲得できるのかもしれない。

前項で書いたことと一見矛盾するけれど、どの一瞬を切り取っても違和感が無いデザインというのが、永続的なデザインなのかもしれない。人生論的な話をするなら、(良い意味で)刹那的な行き方を心掛けるようになってから、随分と気持ちは楽になった気がする。

時間のデザイン―16のキーワードで読み解く時間と空間の可視化

時間のデザイン―16のキーワードで読み解く時間と空間の可視化