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between anthropology, primatology and management of technology

Can Pepper be “Samantha”?

先日発表された「IBM WatsonがソフトバンクのPepperを強化する」という記事を読んで思った事をつらつらと。2015年2月にPepperが発売されて以来約1年が経ち、10月からはユーザーとしてもPepperと触れる機会があったので、果たしてこの事業がどこに行きつくのか/何を目指すべきなのかを考えてみようと思う。


 

開発者である仏Aldebaran社のサイトによれば 、Pepperは”声、触覚、感情表現により人とコミュニケーションを図ることを目的に作られた人型ロボットのコンパニオン”と位置づけられている。Aldebaranを買収したソフトバンクは、いわば“ロボット付きタブレット”であるpepperをデバイスとしてばらまき、アプリ開発手数料や通信費で回収する、というビジネスを想定していたのだと思うが、いまいち買う側にとっての購入インセンティブが思いつかない。その背景には、デバイスであるPepperの使いこなしを実現するアプリ開発が進んでおらず、 Pepperに何をさせれば良いのか誰もわかっていないというのがあるのではないか。

アプリ開発が進まない理由はいくつか考えられる。一つ目は、そもそもPepperのユーザー数(特に一般人)が少ない事。二つ目は、Pepperのアプリ開発プラットフォームであるcorregraphが使いづらいという事(これはユーザー数増加につれいずれ解消される)。そして三つ目は、理由と呼ぶにはあまりにも身も蓋もないけれど、そもそもPepperでアプリ開発をする意義が見当たらないという事である。

先に述べた通り、Pepperはあくまでロボット付きタブレットであり、基本的な機能(天気予報やニュースなど)はPepper前面にあるタブレット上で提供されている。”Pepper”としてそれらの機能が提供される嬉しさを強いてあげるなら、声による読み上げ+身振り手振りが追加される事だろうか。それを踏まえると、Pepper上であえてそれらの機能を提供する意味、ましてやPepperという独自のプラットフォーム上でアプリ開発をする意味は、私にはわからない(もし仮に、AndroidiOS上で動くアプリと互換性があればもう少し話が違ったと思うが、それではソフトバンクの利益にはならない)。


 

少し視点を変えて、MITで開発された”Jibo”というロボットを取り上げたい。公式サイトによると、JiboはSocial Robot for Homeという位置づけにある。Pepperと同様に様々なセンサーを内蔵しており、メールの送信や日程のリマインダ、IoTデバイスとの連携ができるようになるという(まだ開発中との事)。開発者のblogには下記のようにあるので、狙っているビジネス形態もソフトバンクとほぼ同じだろう(ちなみにJiboにはKDDIが出資している)。

we want Jibo to become a healthy platform and vibrant ecosystem that supports both casual developers who just want to “play around” with customizing Jibo, as well as professional developers who might want to add real value to the Jibo ecosystem (and, or course, sell their applications through our appstore).

PepperとJiboを比較すると、基本的な機能は同等(Pepperの原価は約100万円と言われているので、むしろPepperの方が技術的完成度は高いはず)なのにも関わらず、Jiboの方がビジネスとして筋が良さそうなのは何故だろうか(主観的な意見に留まらず、Jiboが二桁億円規模の投資を受けている事を考えると、市場でも相当な評価がされている)。それは恐らく、PepperとJiboが見据えている世界が全然違うからなのだろう。


 

話がどんどん脱線していくが、 2013年末に公開された”her”という映画がある(好き嫌いは分かれるが、私一押しの映画の一つ)。妻と別れたセオドアというおじさんが、人工知能型OSである”Samantha”に段々と恋愛感情を抱いていく話なのだが、Jiboが目指している世界観は”her”が見せてくれる世界と重なるものがある。”her”では、個人が持つ端末にそれぞれ人工知能型OSが内臓されており、音声によってメールを送信したり、ユーザーの感情に合わせて家電を操作したり、時には人生相談に乗ってくれたりする。この”日常におけるパートナー”的存在というのは、Jiboが目指しているポジションに非常に近いのではないか(かつ、客寄せロボット的なPepperが目指しきれていないポジションのような気がする)。”her”の世界を踏まえると、ロボット型である必要はあるのかという疑問は残るが、話しかける上での抵抗感軽減を意図しているのだと思う(逆に言えば、端末に話しかける、という文化が一旦受容されれば、”her”の世界観により近づいていくのかもしれない)。


 

冒頭の問い- “Pepper”という事業がどこに行きつくのか/何を目指すべきなのか-に戻ると、考えれば考えるほどこの事業の合理性が理解できないが、もしAIの能力が人間に追いつく(あるいは、人間と同程度のテンポで違和感なく会話できる)時代が来れば、受付やコンパニオン代替など、もう少しはっきりとしたビジネスが見えてくるのかもしれない。そういう意味で言うと、現時点では、Pepperの拡販にコストを割くのではなくて、リクルートのように機械学習研究(特に音声認識周り)に数億~数十億円を投資しておく方が、まだ未来があるような気がする(Watsonとの提携もその一環なのだろう)。いつも通りとりとめがなくなってしまったけれど。

1/22追記:1/21付で発表された孫氏のインタビューを読んだ。これを読むと、Pepperというのは、利益を追求するというよりも、孫氏の夢を追及する事業なのかもしれない。(人工知能に関する期待がやや過大過ぎる気もしたが。。)