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between anthropology, primatology and management of technology

英語教育の必要性

「日本人は英語が下手」と言われて久しい。日本の英語教育の問題点に関しては多くの議論がされてきた一方、”英語教育の必要性”に関してはあまり記事を見かけないと感じたため、最近の経験を踏まえながら考えてみる事にした(ここで言う”英語教育”とは”全国民を対象とした教育”を、”必要性”とは”莫大な時間とコストをかけた上での必要性”を意味する)。

先に個人的な意見を述べておくと、1) “実践的”な英語を学びたい人に対する公教育の場は存在すべき、2) ただし、万人に対して英語教育が必要かというと、現時点ではそうでもない気がする、という所(”現時点では”とわざわざ書いたのは、2020年以降日本経済が劇的に衰退するのであれば、話は変わってくるからである)。

思考実験的に、英語教育によって全国民が英語を流暢に話すようになった時に何が起こるのかを考えてみる。思いつくままに挙げるなら、1)日本人の海外留学増加、2)日本人の海外就職増加、3) 書類等を含む全ての社内業務を英語で遂行する事による日本企業の海外におけるプレゼンス向上、  4)英語の社内公用語による海外人材獲得、 などだろうか。尚、英語が通じないという理由で日本への旅行を躊躇している外国人を見た事が無いため、観光客の増加等はここでは割愛)。恐らく他にもあるだろうが、一旦この4つについて検証(今回はデータが無いため妄想の域を出ないが)してみる。


 

話が前後するが、今年の4月から半年間UAEオフィスに転籍になり、”ネィティブまたはそれに匹敵する英語能力”が前提とされる世界で生まれて初めて生活する事になった(海外在住経験も留学経験も無い私は、writing能力と語彙力が致命的に足りず、私がいる業界で求められる能力からすると「コードが書けないプログラマ」並みの窮地に陥っている)。

職場の同僚/上司の国籍を見ると、UAE出身の人は誰もおらず、

  • インド人(自国でMBA取得→ドバイで就職)
  • レバノン人(距離的&言語的なハードルが低い)
  • 英国人 (親の都合、もしくは趣味で中東に来た) 
  • イタリア人(自国または欧州圏で勤務→ドバイで就職)

が多かった(尚、UAE出身者は政府系期間に就職する場合が多く、我々の様な肉体労働的ホワイトカラー職には就かない、らしい)。彼らのバックグラウンド&UAEに来た理由は下記2つに大別される(あくまで本人達に聞いた限りだが)。

  1. 英語圏出身∧環境を変えたくてUAEに来た
  2. 幼少期から英語で教育を受けてきた∧ 母国の経済状況が芳しくなく、高待遇を求めてUAEに来た

冷静に考えれば当たり前なのかもしれないが、①余程の変わり者である、②母国でのキャリア形成が難しい、のどちらかでない限り、海外就職をするインセンティブはほぼないのかもしれない(本国からの派遣・出向はここには含まない)。


 

話を前に戻す。 1番の「日本人の海外留学増加」は、現時点で”英語”がどれくらい留学のハードルになっているかによる。語学以外の目的で留学を考える人は、”語学ぐらい”なんとかしているイメージがあるし、一方、語学目的で留学する人間の数は激減するだろう。そう考えると、あまり大きな増加は見込めなさそう。

2番の「日本人の海外就職増加」についても、海外就職そのものへのハードルは下がるにしろ、”終身雇用”が未だに前提とされる日本企業ではなく、海外の人材流動性の高いマーケットにわざわざ飛び込んでいく若者が多いとは現時点では思えない。仮にイタリア並みに経済状況が悪化すれば状況は違うだろうが。。

3番の「書類等を含む全ての社内業務を英語で遂行する事によるプレゼンス拡大」は、実行コストを考えるとかなり難しそうだが、仮に実現したとすれば、海外企業による(特に中小企業の)M&Aが活発化して、面白いシナジーが生まれるというのはありそう(個人的に、米企業が町工場の小さくかつニッチな企業と組んで、何か面白いものを開発する、というようなストーリーにはわくわくする)。製造業だと、最近ではホンダが社内公用語の英語化に取り組む方針だとか(関連記事)。

4番の「英語の社内公用語による海外人材獲得」も、日本経済の今後の行く末に依存している。生活コストが非常に高く、かつ今後の経済成長が見込めない(と体感的には思っている)日本に就職しにくるメリットがあるのだろうか。


 

バックデータもなく勢いで書いてしまったのであくまで”妄想”なのだけど、日本人の英語力が低い事による定量的なデメリットとか、2020年以降の日本経済の行く末に関するデータがあれば、もう少し建設的なものが書けたのかもしれない。(余談だけど、この議論は「もし同時通訳機が劇的に普及したら」みたいなテーマにも繋がっているような気がする)。英語教育における論点みたいなものも真面目に考えてみたい。