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書評: アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜイスラエル企業を欲しがるのか?

原題の”Start-Up Nation”が語る通り、イスラエルベンチャーの強みの源泉を、イスラエルの文化・歴史・制度(主に兵役)を踏まえながら綴った本。後半はやや冗長で読みづらいが、Start-Upの話だけでなくイスラエルという国自体を理解する上でも凄く良い本だった(尚、Apple/Google/Microsoftの話はあまり出てこない)。いつも通り印象に残った部分を抜粋。


 

1. 兵役制度と”フツパー”

イスラエルにおけるStart-Up人材輩出に(恐らく)最も寄与しているのが、兵役制度である。イスラエルでは、18歳以上の男女ともに、イスラエル国防軍(IDF)での兵役が義務付けられている(男子は3年、女子は2年)。かつ、他国とは異なり予備役が兵役以降も続く。つまり国民は、一市民としての肩書と、軍隊の中での肩書の二つを兼ね備えており、それが逆に反階級制度を強めているのだという。この階級意識の欠如が、イスラエルでのイノベーションにつながっているのだとか。

命令とは、与えられた仕事がありそれを真剣に遂行する意志のある人の心を持ってくだされ、忠実に実行されるべきものです。階級の上下はそれほど重要ではありません。なぜなら階級は、年齢や社会的地位における違いをあっさりと超越することがよくあるからです。

合わせて、イスラエル人に特徴的な振る舞いだという「フツパー」も興味深かった。フツパーこそが、イスラエルの失敗に寛容な文化を生み出しているのだとか(下記が本文中の定義)。

ずうずうしさ、恥とは無縁の厚かましさ、厚顔無恥、信じられないほどの”度胸”、無遠慮しかも傲慢という意味、しかし他の言葉や言語ではこの意味を正確に表現できない。

日本の企業と仕事をする中で、これまでは積極的に発言していた若い人が(往々にして独創的なアイデアが飛び出てくる人)、取締役が会議に出た途端一切発言しなくなる光景を何度も見てきた。そこが日本とイスラエルの大きな差なのかもしれない。

また、兵役制度そのものを手放しで肯定するわけではないが、高校を出た後に18歳〜21歳で軍隊で精神を鍛えられ、その後進学して知性を身につけた人間と、18歳で大学に入り、(学ぶことだけに専念する事が許された環境で)知的に過ごした人間とでは、発想力の源泉が違うような気がする(あくまで妄想だけれども)。本文中にも下記のような記述があった。

イスラエルイノベーションのDNAには、何か説明できないものがありますね。(中略)それは結局、成熟度だと思います。なぜなら、国民がテクノロジーのイノベーションセンターで働きながら、同時に兵役につかなければならない国など、イスラエルの他にはひとつもないからです。

なお、シンガポールイスラエルと同様の兵役システム導入を試みたものの、同国の国民性である”秩序”と”従順さへの執着”のせいで上手く行かなかった、とか(シンガポール出身の知り合いがいないため真意の程はわからない)。


 

2. イスラエルにおける投資制度

自分の備忘録的に書くが、VCがイスラエルに進出してくる以前は、ベンチャー資金投資先は1) 首席科学顧問事務所(OCS)、2) 二国産業研究開発基金の二つのみであった。前者は日本におけるNEDO助成金やINCJのベンチャー投資に近いか。後者はアメリカとイスラエル両国のジョイントベンチャーを支援するための基金であり、技術を保有するイスラエルベンチャーと、流通チャネルを持つアメリカの企業を仲介する役割も果たす。これまでに780件のプロジェクトに2億5千万円を投資し、投資先の売上高が80億ドルに達しているというのだからかなり驚異的なリターン率だ。

この二つに加え、”Yozma(ヘブライ語でinitiative)”と呼ばれるプログラムが、イスラエルベンチャーを大きく後押しすることになる。イスラエルのVC、海外のVC及びイスラエル投資銀行で構成される基金に政府が出資する[1]というものであり、同時に投資家へのインセンティブ[2]も提示されている。これにより、イスラエルにおけるベンチャー投資、及び海外VCの投資ノウハウ獲得が実現された(日本でこのプログラムを運用するとどうなるのか気になる)。

[1]基金を構成するイスラエルの企業がイスラエルベンチャー投資に1200万ドルを調達した場合、政府はこの基金に対して600万ドルを融資。

[2]ファンド設立5年以内であれば、成功時にYozmaの持分をファンドが投資簿価+金利(5~7%)で買取り、差額収益を他のLPに分配することが可能であるというもの。(経産省資料より)


 

イスラエルの兵役制度、国民性と投資のエコシステムがイスラエルベンチャーに寄与しているという事は理解できたが、これを日本で実現するのは少し難しいのかもしれない…。何にせよイスラエルにいつか行ってみたいと思わせてくれる本だった。

 

アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?

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